新しい緑の世界へ 挑戦する人
奥田容彦さん・フラワーデザイナー&バラ職人(京都市伏見区)
「いきいきとしたバラを育てることで可能性が広がります」
●花屋に売っていない自然なバラの魅力
僕の温室のバラは、葉にうどんこ病が見られます。市場では受け入れてくれませんが、普通に育てると絶対についてしまうもの。なので農薬を使っていない証のようなものですね。
農薬を使わなくなったきっかけは、農業大学を卒業後、1年間バラの勉強で渡米したこと。きつい農薬を使ううちに倒れてしまって、それからすっかり農薬が苦手になりました。農薬を使わない代わりに、ハーブの抽出液を散布して、温室の上に空けた天窓から虫を逃がしたり、木酢液や竹酢液等を使用しています。よくご家庭で栽培されている方から、農薬を使わず栽培するにはどうしたらいいでしょうという質問を受けますが、これは温室という閉鎖的な場だからこそできる方法ですし、屋外では、なかなか難しいですね。
また、水耕栽培(ロックウール栽培)が主なのですが、地面には直接置いていません。台の上に置いて、下に空間を作り、風通しをよくして、できるだけ病気の発生を防いでいます。空気がよどむとよくない。人間もそうですよね。
そうして栽培することで、バラは生き生きとして、本来の自然な美しい形に育つんです。しっかり養分を得て、太陽光線を浴びて開いた花は、花持ちがいいので、少し開いた状態にしてから出荷をします。今はほとんど全国大手のフラワーショップに卸していて主にブライダル用の装花に使われています。
●バラが変わればアレンジが生まれる
「香りが違いますね。」とよく言われます。花屋さんで売っているバラは、香りのしないバラが多いですよね。それは、香りが強いバラは花持ちしないので、生産者が好んでつくらないからなんです。でもバラの香りは、魅力的ですし人気もありますよね。だから全体の3分の1くらいは、香りがする品種を栽培しています。
香りのあるバラ、ないバラ、トゲのあるバラ、ないバラ、花の大きなバラ、小さなバラ、一本立ち、房立ち...バラは品種数がとても多いんです。そこから気に入ったものを栽培したり、育種にも力を入れています。現在、把握しているだけでも70種。趣味の園芸と呼ばれています。飽き性なので同じ品種をつくっているのが耐えられないんですよ(笑)。
よく見かけるバラは、茎がまっすぐで花は上を向いていますよね。では茎が曲がっていて、花が下を向いたバラを見たことがありますか?このバラをつくるきっかけとなったのは木下恵子先生との出会いでした。先生は、日本フラワーデザイナー協会常任理事などを務め、2010年には京都府から女性初の『現代の名工』(優秀技能者賞)を受賞された、すごい方。先生の下で、フラワーアレンジメントを学ぶうちに、ヒントを得てつくったのが、この茎の曲がったバラなんです。
曲がったバラは、使ったことのない人からは、どう生けたらいいかわからないので使いにくいと言われますが、アレンジについて学んでいれば、とても使いやすいんです。直線だけよりも、曲線を使うことで、アレンジのバリエーションがぐっと増えるんですよ。
●農薬を使わないから広がる次の展開
大阪や京都の専門学校の学生が、授業の一環として来園してくれます。来園する前に抱いていた印象や疑問、来園後の感想などを書いたレポートを提出してくれます。率直で面白い意見が多いですし、参考にもなります。
またフラワーショップや旅行会社さんなどが企画されたツアーやイベントで、多くの方がバラ園見学に来られます。見学だけではなくバラジャムや、バラ水、バラ石鹸づくりなども体験してもらっています。石鹸をつくるというアイデアは、来園者の方からいただいたんですよ。
あとは、京都市で春に開催される「花と緑の市民フェア」でバラのアーチをつくったり、京都市花き振興協会の企画で、フラワーバスやアンフルラージュ(※1)などに使ってもらったりもしています。
農薬を使わない安全なものだからこそ、いろいろな方法でバラを楽しんでもらうことができるんです。次の展開は...随時募集中です。
用語解説
※1)アンフルラージュ
花の精油を抽出する方法。京都市花き振興協会の花き消費拡大プロジェクトで、アンフルラージュを現代版にアレンジし、生花を使って手軽に練り香水を制作できるキットが開発された。現在は、Atelier Michauxで講習・販売を行なっている。http://atelier-michaux.com
※この記事は2011年7月発行の「京のみどり59号」から内容を掲載しています。
冊子は協会事務所(東山区円山町463)でお配りしています。